ARCHITECT COLUMN
埼玉県熊谷市E邸
面積以上の開放感を演出する。
「余白」のある設計作法。
- 設計 建築計画設計事務所
- 施工 コスモ建設株式会社
- 所在地 埼玉県熊谷市
- 敷地面積 207.22㎡(62.68坪)
- 施工 97.77㎡(29.57坪)
- C値 0.3
- UA値 0.47
Feature.01
Location屋外とのつながりや天井の高さ・意匠の演出で、
面積以上の開放感を演出することができる。
E様ご夫妻の第一のご要望は「伸び伸びとした開放感があり、自然光で明るく、家族が集まりたくなるリビングを設けること」でした。
計画地は200㎡以上と余裕があるように感じましたが、道路からのアプローチは限られている、いわいる旗竿地。駐車・転回スペースを考慮すると、計画地半分のエリアで、資金計画による延床100㎡以内の建物と庭の確保が必要でした。
街道から路地に入った先の計画地は、周囲が住宅地。そこも考慮しながら「陽当たり」と「開放感」、「プライバシーの確保」という相反する3つの要素の両立が設計ポイントに。
そこで、南側隣地の平屋建てエリアを活かし、建物形状をL型にする事で死角となる庭を配置し、リビングと繋げました。
当初要望にあった「リビングの吹抜」は開放感を出すために有効ですが、今回は庭への日当たりを考慮し、東に配置したリビングは平屋として建物ボリュームを抑え、その屋根勾配を利用した傾斜天井で高さに変化を付け、庭とつながる広がりのある空間としました。
建物の広さは、実際の面積だけではなく、屋外とのつながりや天井高さの演出などにより、時に面積以上の開放感を生み出すことができます。
暗くなりがちの玄関に庭につながる開口部を設けて開放感を演出
暗くなりがちの玄関に庭につながる開口部を設けて開放感を演出
Feature.02
Passive Designs開口部(窓)で大切なのは、数ではなく
視線の抜けと、風の通り道をつくること。
また、開放感を演出する設計手法として、「開口部(窓)をどのように設けるべきか?」、ということが挙げられます。
この点私は、窓の数や単純な方角は重視していません。プライバシーの問題から、少ない数しか設けられないケースがあったとしても、対角線上に窓を配置していく設計を心がけています。
こうすることで、明り取りの意味合いの他に風通りの良さも生まれます。E様邸でもそのように設計していますので、埼玉の暑い夏でも、風が吹き抜ける爽やかな住空間を体感していただけると思います。
周辺から視線が入らない高さに、明り取りの窓が設置されている
住まい全体に適度な光が差し込む
Feature.03
Planning「隠すところ・見せるところ」をはっきりさせながら、
暮らしやすい家事動線を計画する。
E様ご夫妻は、共働きで日々忙しく過ごされています。だからこそ、家にいる時間をいかに心地よく過ごせるかが、今回の家づくりの重要な要素でした。そこで大切になるのが、ストレスが少なく機能的な家事動線を確保すること。1階のキッチンから、最短でアクセスできる位置にランドリーやウォークインクローゼット、浴室を集約し、グルグル回れる回遊式の動線を採り入れています。動線上には「隠すところ・見せるところ」をはっきりさせて、暮らしやすさに配慮し設計していきました。
その過程で、主に夜利用で照明が必要な浴室・脱衣室を1階の中心に、逆にランドリーや洗面は外壁に面することで高窓からの自然光を確保。浴室が家の中央にあるとても特徴的なプランは、E様ご夫妻との話し合いでこそ生まれてた唯一無二のデザインです。
この敷地にE様ご夫妻のご要望、そこに私たち建築家が手掛けることで初めて誕生した住まいです。大げさに聞こえるかもしれませんが、窓一つとってもそこには理由があり、今のような形になっています。
広い敷地に対して、ボリュームを抑えてコンパクトに住まいを計画
浴室を囲むようにレイアウトされた1階の間取りが面白い
Feature.04
Effective use廊下を兼ねるスペースに、書斎をレイアウト。
「何かを兼ねる」ことで、空間を有効活用できる。
リビングの開放感や寛ぎを最優先しつつ、限られた空間の中で書斎(趣味スペース)を設けることもご要望の一つでした。ただ、「設けるのであれば、家族の気配を感じられる場所に欲しい。でもリビングが狭くなるようなら、設けなくてもいい…」という意向もありました。
夢や憧れの暮らしを叶える家づくりですから、こうした理想にも建築家としては応えたい。そこで、2階の廊下を兼ねる一角に書斎を設けることにしました。階段吹き抜けの延長上に提案することで、省スペース設計ながら1階キッチンから階段越しに気配が感じられるようになりました。
回遊動線の提案でもそうでしたが、ただの廊下ではなく何かを兼ねるスペースにすることで、空間を有効活用した効率の良い間取りが形になります。
2階とつながる階段吹き抜け。1階の家族の存在感が2階まで伝わる
2階の書斎スペース。ここで返ると、1階のダイニングの様子が見える
Feature.05
Philosophyあえて「空間の余白」を設けることで、
そこが将来、多機能な場所として活躍する。
永く快適に暮らしていくためには、基本性能の高さや、快適な家事動線、開放感の他に、10年後、20年後の将来を意識した設計も欠かすことはできません。
例えばE様邸の場合は、昨今よく見かける「リビングの勉強コーナー」のような造り付けのカウンターを設けていません。
その代わり、電子ピアノが置ける空間を確保しました。この空間には、電子ピアノを置く予定ですが、将来は机を置くこともできます(上の写真のソファーがある場所)。このように最初から建築工事として造り込んでしまうと、その時は良くても将来身動きがとれなくなる場合もあります。色々な用途に可変する「空間の余白」があると、暮らしも豊かになります。E様邸は開放的な空間づくりと多様な機能を備えた住まいの好例ではないでしょうか。
ちなみに、E様のご主人は建築関係のお仕事をしており、奥様のお父様は現役の棟梁をされている建築一家です。今回の家づくりでは、そんな目の肥えたご夫妻にも、大変満足していただき、私たちも嬉しく思います。
Profile
建築家- 1988年福井大学工学部建築学科卒業
- 1988年デベロッパー建築部所属
- 1996年アトリエ系設計事務所所属
- 1998年一級建築士事務所建築計画設計事務所設立
自身の住まいを建てる事は生涯で貴重な経験ですから、愛情を持って長く暮らせる住まいの設計を心掛けています。永く住んでいただくために、敷地の受けている自然環境に十分に配慮された設計であること、そして、家族構成やライフスタイルの変化を想定し、できるだけ自由度の高い設計であることを大切に考えています。